「あなたの作るナスの揚げびたしが食べたいみたいだから、作りに来てちょうだい」
それは義母からのメールだった。
2004年の夏のこと。我が家は7.13水害で床上浸水の被害に遭い、
住まいの補修のため、1か月半 それぞれの実家に身を寄せていた。
心に重くのしかかる先々への不安。
自分たちの暮らしと、実家との暮らしはリズムも違い、実の親子であっても肩身が狭い。
さらには暑さも追い討ちをかけ、私は精神的にピリピリしていた。
ムスメは朝 起きられなくなり、気づくと笑うことも少なくなっていた。
オットはオットで彼の実家から毎日 車で1時間かけて通勤し、身も心も疲れていたと思う。
そんなある日、義母からこのメールが届いたのだった。
うれしくてすぐにムスメとふたり、ナスを買ってオットの実家へ向かった。
平日は離ればなれのパパ(オット)に会えるとあって、ムスメは大はしゃぎ。
さっそく台所を借りて、ナスを下ごしらえし、素揚げする。
日が暮れた頃、義母も義父も義妹も帰ってきた。
それから やや遅れて、ようやくオットも帰ってきた。
「おかえりなさ〜い」と出迎える私たちに、ほっとして嬉しそうな顔をするオット。
みんなで食卓を囲み、ムスメが声を上げて笑う。
それを見ていると気持ちがずいぶん楽になるのがわかった。
実際にオットが
「ナスの揚げびたしを食べたい」と言ったのかどうかはわからないけれど、
義母のメールのおかげで 私たちはとても救われた。
毎年、ナスが美味しい時期になると、せっせと作るナスの揚げびたし。
そのたびに、あの夏を思い出す。