目を覚ましたとき まわりには誰もいなかった。
起き上がって伸びをして、身づくろいをした。 みんなどこへ行ったのかな。
外は雨が降っている。鳥の声もしない。外に出ると、道の向こうにおかあさんの姿が見えた気がした。
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気がつくと道に倒れていた。雨がかかって冷たい。身体が痛くて起き上がることができない。
大きな"かいじゅう"みたいなすごいものが 左からも右からもひっきりなしにやって来て
私の姿を見つけては よけていく。
ごめんなさい。うごけないの。おかあさんのところへいきたい。
ふいに1匹のかいじゅうがとまって そこから女のひとがでてきた。
私のそばにきて「轢かれてしまったのね かわいそうに」と言うと 私を抱き上げて道の反対側へ運んでくれた。
「どうもありがとう」といいたかったけれど痛くて声がだせない。
女のひとは ごめんね と小さな声で言うとわたしを置いて行ってしまった。
おかあさんは どこかなあ。
雨はまだ降っている。
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前の前を走る車が不自然に左へ避ける。前の車も同じように避ける。
道路の中央にちいさななにかが横たわっているのが見えた。明るい茶トラの仔猫だとすぐにわかった。
まだ汚れていないから轢かれたばかりかもしれない。
車の通りは多く しかも車を停めることのできるスペースがない。
バックミラーにその姿を見ながら(ごめんね ごめんね)と そのまま運転を続けた。
せめて道路の端に寄せてあげたかった。
それに、と思う。もしまだ生きていたらどうする?医者に連れて行くのか?
その子のことをずっと面倒見られるのか?うちにはもう二匹ネコがいて、新しい仔猫を迎える余裕はない。
そもそも野良猫なのかどうかもわからない。
車を走らせながら頭のなかでぐるぐると考えて引き返すのを止めた。
さっき目に飛び込んできた可愛い耳と頭と小さな身体が何度も脳裏に浮かぶ。
冷たい道路に体温をどんどん奪われて弱っているだろうか。
痛くて動けなくてつらいだろうか。
思うだけで泣きたい。
結局何もしてやらなかった自分は ねこ好きだなんて言う資格はないと思った。